しましま愚図羅の話C

 偶然も、重なれば不思議なもんである。
楽しい偶然なら、私も歓迎もするが・・・
ほんの少しの昔の出来事、私はある年の師走もおしせまった、大晦日に大分に来ていた。大分で何をするかというと、釣である。蒲江という山間の小さな漁村で佐伯市から25キロばかりのところにある。元旦早朝の船に乗り目出度いかな、初日の出と釣と焼酎で、新年を迎えようと欲張り、大晦日の夕方には蒲江に着いていた。目的の時間の半日も前の到着である。山間の小さな釣宿で、酒の時間が12時間もある・・・今から乾杯すれば、早朝の船出の時間には、完全に酒で身体が麻痺しているかも・・・と思いつつも、釣宿には先客があり、大好きな焼酎と、ホルモンの塊りをほぐしながらの宴会の真っ最中である。美味しい臭いは我々の鼻をついた。

早速、二人の爺さんの宴会に参加しなければと、先ずは挨拶などして話しかけ「元旦の釣ですか?」などと適当に話し掛け、ホルモンと焼酎の前に座っていた。二人の爺さん、どう見ても家族の臭いのしない雰囲気である。「こんな、大晦日に、釣とはいいもんですね」と探りをいれてみると、男一人の寡婦爺さんであるとのこと。北九州から5時間の道のりをここの釣宿によく通ってる常連の爺さんである。勿論、焼酎もホルモンも遠慮なく私の腹の中に吸い込まれていきます。「このホルモン美味ですな?」・・・「うまかホルモンを1キロ買ってきた、スーパーのとは違うぞ」・・・脂ののった口の中で、身の半分は溶けそうな代物である。

釣宿といっても、豪華に客を招くような造りではない。ここの船長の手作りの建物で、部屋を幾つも仕切り、釣り客は適当に空いている部屋に荷を解くのてある。勿論、部屋代も電気代もいらない、釣をして、瀬渡し代金を払えば自由に寝転ぶことができる。寝具、毛布、枕なともあるが、私はこれらは絶対に触らないようにしている、船虫と釣り客の汗で年中湿っているのである。
肉を焼くにはマナーも必要で、畳の部屋では絶対避けなければならない、人様の建物を肉と脂でベタつかせるわけにはいかないので、軒先での酒盛りとなる、大晦日の夜、二人のベテランの話は贅沢な酒の肴であり、大酒を食らってしまった。
明日の釣はどうなることやら・・・・

終わりの無い酒の時間・・・すっかり酒に侵されてしまい、明日の釣に支障をきたしそうな按配である。ご馳走さんと挨拶して、寝袋にもぐり込む。朝一番の船に乗ることはできそうにないので、除夜の鐘を想像しつつ、少し後ろめたさも感じつつ、眠りにつく。

夢か幻か、酒で薄められた、血の回りが悪いのか、なにやら外が騒がしい。酒に侵された身体を鞭打ち、寝袋から出て、外の様子を覗いてみることにした。
なにやらただ事ではない雰囲気である。釣り客の話では元旦早々、事故である、海の事故・・・夜中に島に渡った釣客の一人が酒に飲まれ・・・・

正月の元旦の島
これ以上のことは、ここには書けない・・・無念である
アンクルトリスのおじさんは酒のCMだった
偶然はまだ続くが

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